カナベル・レポート

― 掻塚町「妙な噂」調査ファイル ―

調査・文責:カナベル(オカルト配信者)

はじめまして、あるいはいつもありがとうございます。オカルト配信者のカナベルです。

このページは、東京都練馬区の掻塚町という町について、私が個人的に集めている「妙な噂」の調査記録です。動画にする前の下ごしらえを、思い切って先に公開してしまうことにしました。理由はふたつ。ひとつは情報提供をお願いしたいから。もうひとつは、ひとりで抱えているにはこの町は少し変というか──手に負えないからです。

誤解のないように書いておくと、掻塚町は良い町です。都心へのアクセスだっていいし、家賃だって安い。色んなお店もあって、結構栄えているんです──少なくとも表面上は。だけど変なんです。人がどんどんいなくなるし、変な事が多発している。人も何人も亡くなっているのに、どれも解決しない。事件がおきるとニュースにはなるし、一時的には騒がれます。だけどみんなすぐ忘れちゃうんです。なんだかおかしくないですか?

 

だから私はこの街を調べる事にしました。すると出るわ出るわ……でもどれ一つとして関連性が見当たりません。もしかしたら私が見落としているだけなのかもしれません。もし何かに気づいた人がいたら教えてくださいね。

以下、現時点で調査中の五件をまとめます。真偽の保証はしません。というより、真偽を確かめるための記録です。

【おねがい】本レポートは娯楽と考察のためのものです。現地への凸行為、店舗・住民・関係機関へのお問い合わせや迷惑行為は絶対にやめてください。
FILE.01

開かない氷屋さん

調査継続中

■ 噂

三宅大通りの一本裏に、古い氷屋さんがあります。氷の一貫目売り、という時代の名残みたいな構えのお店です。でもこの店が開いているところを誰も見たことがありません。

それだけなら「廃業した店」で終わりです。ところがこの店、廃業していないんです。

■ 集まっている話

子どもの頃からあの店の前を通って学校に行ってたけど、開いてるのは一回も見たことない。でも潰れた感じもしない。ずっとあのまま。 ――町内在住・30代の方
夏の夜に前を通ると換気扇が回ってます。あと一回だけ、中から氷を挽くみたいな音がしてました。ざり、ざり、って。 ――リスナーさんの投稿

■ 調べたこと

まず現地を確認しました。ガラス戸の内側に「本日休業」の貼り紙。これは何年も前からあるそうです。ただ、気になったのは貼り紙の状態です。西日の当たる立地なのに、紙が全然焼けていません。文字も滲んでいない。「何年も前からある貼り紙」には、とても見えないんです。

次に登記を調べました。法人としては現存しています。設立は昭和二十六年。役員の変更登記も、そう古くない時期まで続いていました。つまりこの氷屋さんは、法律の上では今も営業しているお店です。

近隣での聞き込みでは「先代の頃は普通に開いていた」「今は配達専門なんじゃないの」という声。なるほど配達専門なら店が開かないのは当然です。ただ、配達している姿を見たという人も、今のところ見つかっていません。町内の飲食店さんにもそれとなく聞きましたが、取引があるという店はゼロでした。

あとひとつ。町内で葬儀があった翌日はシャッターが半分開いている、という証言が一件だけあります。一件だけなので、裏は取れていません。

■ 考察

合理的に考えれば「特定の取引先だけに卸す配達専門店」がいちばん筋が通ります。私もその線を推したい。推したいんですが、そうすると最後にひとつだけ質問が残ってしまう。

誰に氷を売っているんでしょうね。葬儀屋さん?いいえ、今の時代の葬儀屋さんはドライアイスを使います。氷を使っていたのは昭和初期〜戦後にかけてです。

カナベルのひとこと

換気扇の音を聞きに行った夜のことを、いまだに時々思い出します。真夏なのに、あの路地だけお店の前がすうっと涼しかった。氷屋さんですから当たり前ですね。当たり前ですよね?

FILE.02

古い制服の配達員

調査継続中・情報求む

■ 噂

掻塚町では、古い型の制服を着た郵便配達員の目撃談が続いています。現行の制服と色がまるで違う、という点で証言が一致しています。

そして妙なことに、この配達員が「配達しているところ」を見た人はいません。歩いているところだけです。

■ 集まっている話

親の若いころのアルバムに写ってる郵便屋さんと同じ色でした。今のとは全然違います。なのに、生地だけ下ろしたてみたいに真新しいんです。 ――町内在住・40代の方
自転車もバイクもなしで徒歩。肩の鞄がぱんぱんに膨らんでた。どこの家にも寄らないでずっと歩いてた。 ――リスナーさんの投稿

■ 調べたこと

郵便の制服の変遷を調べています。これが素人には想像以上に難しくて、時代ごとの正確な仕様がなかなか特定できません。証言の色味からすると数十年は遡りそうなのですが、断定は避けます。制服や官公庁の被服史にお詳しい方、ぜひ力を貸してください。

管轄の郵便局には、遠回しに問い合わせてみました。回答は「該当する配達員はおりません」。まあ、そうですよね。変な質問をしてすみませんでした。

手元の目撃談は現在七件。集計して気づいたことがあります。七件すべて、どんな顔の人だったかというのを覚えていないんだそうです。まあでも普通は他人の顔なんて注意しないと覚えられないでしょうから、そこは不思議でもなんでもないかもしれないです。

■ 考察

コスプレ説、映像作品の撮影説は最初に検討しました。ただ、区のロケ撮影の記録に該当はなく、同じ扮装で何度も同じ町を歩く理由も見つかりません。

私が引っかかっているのは鞄です。ぱんぱんに膨らんだまま、どの家にも寄らない。あの鞄の中身は、配達していないのに減らないのか。それとも、配達していないから減らないのか。

カナベルのひとこと

もし見かけたら声をかけてみたいとおもいます!

FILE.03

帰ってくる石

発端者と連絡不能

■ 噂

掻塚町で拾った石を家に持ち帰ると、数日後、玄関の前に置いてある。捨てても置いてある。よその町まで捨てに行っても置いてある。

■ 集まっている話

子どもが空き地で拾ってきた石、気味が悪いから捨てたんです。三回捨てました。今も玄関にあります。もう触らないことにしました。 ――発端とみられるSNS投稿(2023年・現在は削除)
うちはスマートドアホンに映ってました。夜中の三時に家族が玄関を開けて、石を外に置いて、戻っていくところが。本人は覚えていないそうです。 ――同系統の投稿(動画は非公開のまま、アカウントごと消えています)

■ 調べたこと

まず整理させてください。この噂、前半と後半で話が逆さまなんです。前半は「石が玄関に返ってくる」。後半は「家の人が石を外に返しに行く」。返ってくるのか、返しに行くのか。どちらの証言もあります。

発端の投稿主にはDMを送りましたが、返信のないままアカウントが削除されました。追いかけようがありません。

民俗の類例は、実はたくさんあります。恐山や賽の河原のように「石を持ち帰ってはいけない」とされる場所は全国にあって、持ち帰った石を郵送で返しに来る人が絶えない霊場も実在します。つまり「石は返すもの」という感覚自体は、この国に古くからあるんです。

ただ、掻塚町に霊場はありません。賽の河原もありません。それどころか、証言者たちが石を拾ったという場所がばらばらなんです。空き地、公園の隅、道端。特定の「拾ってはいけない場所」がどうしても絞れません。

■ 考察

風習だけがあって、風習の由来になる場所がないっていうのは少し不気味です。色々と文献もあたってみましたが、結局何がなんだか良く分かりませんでした。こういう場合、考えられるのは最初は衛生・防腐・防犯・経済などの具体的な目的があったのに、その条件が変わって目的だけ忘れられた。氷や線香がまさにこれで、腐敗と臭いの対策だったものが「そうするもの」になっています。文献には理由が書かれないことが多いです。当時は当たり前すぎて誰も説明しなかったからです。

もしくは──由来を語ること自体が忌避されたとか。

カナベルのひとこと

単なる後付けとかなら良いんですけれどね…… 

FILE.04

ならびさん

調査継続中

■ 噂

掻塚町の子どもたちの間で流行っている話です。夕方、影がふたつある子は「ならびさんに並ばれてる」。並ばれた子は「かわりばんこ」になる。

「かわりばんこ」が何なのかは、子どもたちも説明できません。でも全員、その言葉のところで声が小さくなるそうです。

■ 集まっている話

去年の秋くらいから急に言い出しました。上の学年から降りてきた感じです。禁止するほどでもないので様子を見ていますが、外遊びの子たちが夕方になると影を確認し合うんです。あれはちょっと、見ていて妙な光景ですよ。 ――学童保育の指導員の方

■ 調べたこと

学校の怪談としては、型そのものは古典的です。口裂け女が一九七九年に岐阜から全国へ広がったように、子どもの噂には発生地と伝播経路があります。そこで「ならびさん」を検索してみたところ、掻塚町関連の書き込み以外、どこにもヒットしません。全国区の怪談の輸入ではなく、この町の発祥ということになります。

影がふたつに見える現象自体は、光学的にはなんの不思議もありません。光源がふたつあれば影はふたつです。夕方の住宅街は西日と街灯と店明かりが混ざるので、条件は簡単にそろいます。はい、デバンク完了。のはずでした。

リスナーさん経由で、子どもたちに「ならびさん」の絵を描いてもらったんです。八人分が手元にあります。八人とも、影を四角く描きました。人型ではなく、四角です。それで「ならびさんは四角いの?」と聞くと、子どもたちはこう答えたそうです。

「ならびさんはまだ来てない」

じゃあ、絵に描いたその四角は何なのと聞くと、「ならんでるの」と。

■ 考察

子供はみたものをみたままに説明します。大人の様に考察したり、独自の解釈を加える事は余りありません。この件については、引き続き子供たちを主な条件としてリサーチを続けたいとおもいます。

カナベルのひとこと

かわりばんこって言葉、なんだか不穏な響きを感じますよ……

FILE.05

暗い町

再検証予定

■ 噂

掻塚町で撮った写真は暗く写る。地元の若い子たちの間では「掻塚は写真映えしない」がほとんど常識になっているそうです。

■ 集まっている話

夜景モードが勝手に切れるんですよ。設定し直してもまた切れてる。機種変しても同じでした。 ――リスナーさんの投稿
放課後にみんなで撮ると全員暗いんです。加工で上げても、なんか暗いままなんです。明るさの数字は上がってるのに。 ――町内の高校生(保護者の方経由)

■ 調べたこと

これは検証できる噂です。やりました。同じスマホ二台で、掻塚町内と隣町、同時刻に同じ構図を各二十枚。昼と夜の二回です。

結果から言うと、有意な差は出ませんでした。露出もISO感度もシャッター速度も、EXIFの数値は町の内外でほぼ同じ。並べて見比べても、私の目には同じ明るさに見えます。ごめんなさい、この噂は「思い込み」で決着です。

……と、書いて終わるつもりでした。

検証に使った八十枚のうち、掻塚側の三枚だけが端末から消えていました。クラウドの自動バックアップにもありません。撮った記憶はあります。三枚とも同じ場所で撮った分です。それが町のどこだったか、どうしても思い出せません。撮影順から逆算すれば絞れるはずなのに、その三枚の前後だけ、順番の記憶が噛み合わないんです。

■ 考察

機材のせいにできるうちは機材のせいにしておくのが、この趣味の健全なやり方です。データの同期エラーは実際よくあります。よくあるんです。再検証します。

カナベルのひとこと

消えた三枚に何が写っていたのかちょっと気になりますね。

以上、五件でした。

おわかりいただけたでしょうか。どの話も決定的なものが何ひとつ出てきません。写真は消えるし、発端の投稿主とは連絡がつかなくなるし、肝心の証言に限って裏が取れない。何の関係もなさそうな幾つもの変な話──私が怖いと思っているのは、それらがどこかで一繋ぎにつながってしまうことなんです。そういう時って、その、大抵──ホンモノだったりしますから……。

掻塚町の「妙」な話、引き続きDMで募集しています。ご近所の方の「そういえば」が、いちばんの手がかりです。よろしくお願いします!

それでは皆さま、今夜もよい闇を。カナベルでした。